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Last Updated 2002/10/13

学会リポート012

中古文学会秋季大会


日  時 ■ 2002年10月12日(土)〜13日(日)

会  場 ■ 相愛大学南港講堂

特派員 ■ 毛利美穂(「比較文学する研究会」管理人)


2002年10月12日(土)〜13日(日)中古文学会秋季大会(於相愛大学)が開催された。報告者の都合上、参加したのは13日の午前の研究発表会のみであったが、ある種、活気のある会であった。

今回の研究発表は以下のとおりである。

第1日 10月12日(土)
  • 『夜の寝覚』末尾欠巻部「ちご宮」再考 ――「伝慈円筆寝覚物語切」の一葉から――
    (甲南女子大学(非) ・ 米田明美)
  • 『とりかへばや』における「うち語らふ」「語らふ」
    (桃山学院大学(非)・龍谷大学(非) ・ 安田真一)
  • 『山路の露』二類本の派生について ――独自本文の性格――
    (広島大学大学院 ・ 岡 陽子)
  • 『和泉式部日記』の性格と主題
    (関西大学(非) ・ 藤川晶子)
  • 為家本『土左日記』について
    (大阪大学 ・ 伊井春樹)

第2日 10月13日(日)
  • 柏木の猫の夢
    (大阪大学大学院 ・ 藤井由紀子)
  • 紫の上と浄土 ――御法巻の詠歌、「薪尽く」と「薪こる」を中心に――
    (並木由紀)
  • 『源氏物語』紅梅巻について
    (武蔵野女子大学(非) ・ 縄野邦雄)
  • 氷を持つ女一宮 ――「蜻蛉」巻における薫の垣間見をめぐって――
    (國學院大學大学院 ・ 太田敦子)
  • 善珠撰述仏典注釈書における漢籍の引用 ――『成唯識論述記序釈』をめぐる一考察――
    (早稲田大学大学院 ・ 河野貴美子)
  • 三代集の「つつ留」について
    (東京大学大学院 ・ 栗田 岳)
  • もう一人の如覚 ――『夫木抄』所載歌をめぐって――
    (早稲田大学 ・ 兼築信行)

冒頭に述べたが、報告者が発表を拝聴できたのは、2日目の藤井由紀子氏から太田敦子氏までの4人である。いずれも『源氏物語』に関する発表であり、特に藤井氏「柏木の猫の夢」と太田氏「氷を持つ女一宮 ――「蜻蛉」巻における薫の垣間見をめぐって――」については大いに関心を寄せていた。
実をいうと報告者は、非常に興味深い発表であったこれらの発表について、簡単な発表紹介はともかくとして、感想を述べるのにいささか戸惑いを感じている。感想を述べる前に、活字化されたものを確認したいという思いにかられてしまうのである。従って、できるだけ簡潔に紹介・感想を述べたいと思う。

藤井氏の発表は、『源氏物語』若菜下巻の、女三宮と密通を果たした柏木がその逢瀬の合間に見た猫の夢について、従来大前提となっている「猫」=「懐妊」という図式を外して再検討すべきではないかと提案する意欲的なものであった。
柏木の猫の夢については、当時「猫の夢を見ると懐妊する」という俗信があったと解するのが一般的であったが、その俗信を裏付ける資料はいまだ発見されておらず、同時代の猫にまつわる話を見ても、そこに懐妊につながるような意味を読み取ることはできない、というのが氏の主張であった。これについては大いに納得するものである。希望をいえば、物語における猫の存在についての位置付け・考察と、参考文献として『今昔物語集』などを提示しているが、それら他文献と『源氏物語』の相違等の整理と解消、そして猫の存在を呪術的・霊的な存在として位置付けているのか否かといった自身の主張を明確化であろうか。切り口はいいと思うので、今後に期待したいところである。

並木氏の発表は、『源氏物語』御法巻の法華経千部供養の場面、「薪こる讃嘆の声」の響く中で、紫の上は明石の君と最後の贈答を行うが、この際、死を目前にした紫の上だけがあえて一般的な提婆品ではなく序品を引用したかということに着目し、そこに紫の上の死および信仰に対する思いを読み取ろうとするものであった。
なかなかまとまった発表であり、『源氏物語』における仏教的意義に意欲的に取り組んでいる。今後期待するところといえば、紫の上の死を、歌のみでなく本文からも読み取っていくことと、『源氏物語』は仏教などだけで理解するのではなく、仏教が物語においてどのような位置にあるかということであろうか。

縄野氏の発表は、匂宮のことば「この花の主は、など春宮には移ろひたまはざりし」など、要所の解釈に立ち戻って『源氏物語』紅梅巻を精読し、婿取りをめぐる按察大納言と匂宮の関係について、新たな読みの可能性にさぐるものであった。
昨今問題提起されている続編の朱雀皇統という観点や、按察大納言の政治的位置などをからめながら、匂宮が宇治へと傾いていく精神構造を、続編における紅梅巻の位置付けを通して論じたところは実におもしろいものであった。政治的な問題については、匂宮の背景も見なければならないし、紫の上想起の装置として、按察大納言の継子であり真木柱と故螢兵部卿宮の実子である宮の御方や、軒近くに植わっている紅梅を挙げているが、これらについてはまだ検討が必要であろうと思うので、今後に期待したいところである。

太田氏の発表は、『源氏物語』蜻蛉巻において薫が垣間見た氷を持つ女一宮の姿、特にその氷に注目して、女一宮の造型を明らかにし、蜻蛉巻のありようを追究したものであった。
女一宮の存在意義を明らかにすることは、続編における薫の存在を考察する上において重要となってくるだろう。その点においては氏の着眼点はよかったように思える。太田氏は氷に注目し、氷の始原的意義をさぐる際に『日本書紀』や『律令』『風土記』などの上代テキストを数多く引用していたが、これについては管理人の専門分野であるので若干意見を述べさせていただく。氏は、これらの上代テキストに対する読解が不充分である上に、自身の論に沿った部分を引用しているとは言いがたく、また、氷の意味とはなにか、はかない恋か否か、女一宮は氷を持った方がいいのか否か、女一宮の存在は神秘的なのか否かなど、氏の主張がたいへん揺らいでいたことや、『源氏物語』本文の読解に対しても気になるところがあった。実に多くの文献を引いているが、いずれも氏の論を補強するどころか不安定にしていたところは残念であったが、ある意味、報告者もいろいろと考えさせられた発表であったようである。

今回は2日目の午前中の研究発表のみしか拝聴できなかったことは残念であるが、会場は大いに盛り上がっていたように思う。報告者は専門外であることから、各発表への的確な感想が述べられたとは思えないが、活気のある質疑応答に、エネルギーをいただいたという感じである。

有意義な会であった。


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