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Last Updated 2002/6/3

学会リポート011

中古文学会関西支部会第1回例会


日  時 ■ 2002年6月1日(土)14:00〜

会  場 ■ 神戸女学院大学

特派員 ■ 毛利美穂(「比較文学する研究会」管理人)


2002年6月1日(土)中古文学会関西支部会第1回例会(於神戸女学院大学)が開催された。関西平安文学会が、中古文学会関西支部となって記念すべき最初の例会である。そのこともあってか、今回は参加者も多いように感じた。報告者は専門が異なることから入会はしていないが、関西を中心としたこのエネルギッシュな会風が好きで、頻繁に参加させていただいている。さまざまな先生が語られていることだが、かつては『源氏物語』研究者による発表が主であったが、ここ最近、それ以外の発表も活発に行われ、今回は3つの発表の内、『源語』関係は1つであった。今後の発展が期待できる、よい例会であった。

感想を先に述べてしまったが、今回の研究発表は以下のとおりである。

  • 『源氏物語』における朱雀帝の位置付けについて
    (神戸大学(院) ・ 村口進介)
  • 「ひゆ」と「さゆ」――『新撰万葉集』の一首から――
    (三宅えり)
  • 『俊頼髄脳』の本義
    (相愛大学 ・ 鈴木徳男)

村口進介氏の発表について簡単に紹介する。

従来、桐壺院の遺言・崩御などから、桐壺院の視線(心)は冷泉朝に向けられていたとするが、桐壺院の言動からは、朱雀朝から冷泉朝への流れを見据えており、朱雀朝にも自らの流れを求めていたと考えられるのではないかと提案する発表であった。
村口氏が検討対象とする朱雀朝は、桐壺院崩御以前であり、本文に記された、源氏や左大臣の重用を促す桐壺院の意思を推し量っての朱雀帝の言動を例に挙げて、『花鳥余情』や『源語秘訣』などでそれを確認していくというものであった。
まとまりのよい発表であった。それだけに4点ほど気になる箇所もあった。
(1)村口氏は、清水好子氏「朧月夜に似るものぞなき」(『講座 源氏物語の世界』第2集、有斐閣、1980)の論を自身の論の基底とされているようであるが、引用部分を読む限り、氏の解釈とは食い違うのではないかということ。
(2)桐壺院、そして桐壺院の意思を推し量っての朱雀帝の源氏重用を、『花鳥余情』など他文献に求めていることはよいのであるが、源氏本文からの検証が少ないように感じたこと。
(3)氏は、賢木巻に描かれている桐壺院の遺言に、朱雀朝から冷泉朝の流れを見据えた院の気持ちを読んでいるが、さらに深い部分があるのではないかと感じたこと。
(4)朱雀帝についての検討が主だったように思えたが、そうであれば、検討対象を朱雀朝に広げられた方がよかったのではないかということ。これについては今後の課題ということでもあろうが。
 今後、どのように論を展開されていくか楽しみである。

次に、三宅えり氏の発表であるが、これは『新撰万葉集』の一首から、「さゆ」に「冷」の字をあてる意味を問い直すものであったように感じた。さまざまな文献を検討しての意欲のある発表であったが、表記を問題としているのか、それとも本文からの意味を問題としているのか区別がつきにくかった。また、『落窪物語』などを例に挙げて検討していたが、『落窪物語』には物語としての主張がありテーマがあり、それによって表現の方法も変わるのであろうし、それをもって『新撰万葉集』をみるのは少々違和感があった。今後の展開に期待である。

最後に鈴木徳男氏の発表については、氏がすでに論を発表していることから、まとまりのある実に納得のいく発表であった。『俊頼髄脳』に関しては若干興味があったので、なるほどと拝聴した。

今回は発表内容についての説明を省いて、報告者の感想を述べてみた。専門外であることから、各発表への的確な感想が述べられたとは思えないが、活気のある質疑応答に、エネルギーをいただいたという感じである。

今後の会の発展が楽しみな発表会であった。


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