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Last Updated 2000/6/25

質疑応答009

瑞祥・凶兆からみる日本書紀編纂に関する一考察(2)

毛利美穂に対する質疑応答


■ 質問

匿名希望:これまでのご論を拝見するかぎり、仁徳期に注目されていることがよくわかりました。書紀編者が仁徳朝を重要視したことが窺える記事はありますか。

発表者:書紀が編纂された時期から考えますと、ちょうどそのころ、聖武天皇の皇后として藤原光明子が立后する際に、仁徳天皇が皇族出身ではない磐之姫を皇后に据えたことが先例として挙げられ、光明子が立后しても差し支えはないという宣旨があります。ここで先例として仁徳朝のことが挙げられたということは、重要ではないでしょうか。それまでに仁徳朝の重要性が政権内部の者によって認識されていたのか、それとも、光明子の正当性を述べるために急遽仁徳朝が注目されたかは定かではありませんが、当時、仁徳朝が政治的にかなり重要な位置を占めていたことが確認できます。また、倭の五王の一人なので、対外的にも注目される天皇でもあります。

まさ:書紀の記事の分析から仁徳朝頃が伝説と歴史が切り替わる分岐点に当たる時期だと思いますが、ここで日本的な神の威光から中国的な兆しへと切り替わっていく点に、書紀編者の視点はどのように現れているのでしょうか。

発表者:因果関係や説明が不明瞭になります。中国的な兆しですと、その動物や現象そのものに意味が付されるので、神武紀にみられるような明確な説明がなされません。書紀編者の視点としては、応神紀のツクの話など、仁徳紀前後に少しずつ中国的兆しが見られることが特徴です。

まさ:私は仁徳朝以降中国的要素が深まったのは、何らかの形で記録が残っており、それを分析するという形が取られたためではないかと思います。逆に仁徳朝以前については記録もあまり残っておらず、伝説上の時代であったためにかえって日本的要素が強まったのではないでしょうか。

発表者:確かにそうかもしれません。日本書紀全体を見た結果、仁徳を境にして変化が見られることは、他の記事からも窺えることであり、また、後世の文献からもそれはわかります。現在、仁徳朝以降の中国的儒教的精神の導入について検討しているところでしたので、たいへん興味深い見解でした。ありがとうございます。

hina:仁徳期に転換期がみられるということですが、曖昧な部分も多いのではないでしょうか。

発表者:その通りです。転換期といいましても、ガラッと変わるわけではありません。それ以前の傾向を残しつつ、新しい要素も加わるのです。ですから、少し曖昧な、混沌とした状態です。その状態が注目すべき点だと思い、転換期を仁徳に設定したのです。

まさ:なぜ書紀編者は中国的兆しを導入しようと考えたのでしょうか。儒教精神の導入により中国的兆しが見えるようになったと思いますが、その時期を仁徳朝としたことにどのような意味があるのでしょうか。

発表者:以前、夢と巫女を調べたときに、書紀からは中国を意識し、独自の歴史観を確立・構成しようとする編纂態度の一端が窺えました。書紀が中国的要素を取り入れたのは、編纂当時の風習からではないでしょうか。その中国的要素が天皇制と深く結びついていたので、導入されたと思います。ではなぜ、書紀全体にそれを反映させず、仁徳紀に集中させたかといいますと、先に述べました「日本独自の歴史観」の確立のためと解釈します。「日本は中国とは違うんだ、こんな歴史があるんだ」ということを記録し、かつ、当時の天皇制に結びつけていかなければならない。その転換期に設定されたのが、仁徳朝なのです。
なぜ仁徳朝に転換期を置いたかといいますと、この辺りはまだ未調査のため推測でしかありませんが、古事記でも下巻が仁徳から始まることを考えると、倭の五王など外国の史書に掲載されていることや、土木工事などによる国土平定や天皇制の基礎を築いたのが、仁徳朝前後だからではないでしょうか。対外政策による技術などの繁栄は、国内充実にも関わってくることですから。また、書紀が外国を意識した上で作成された史書であるならば、外国の史書等に載っていますと「これは、あの史書にも載っている」と説明しやすかったのでは、と考えられます。
とはいえ、仁徳紀でガラッと中国風に転換したわけではありません。これについては、NO.005「仁徳紀再考」を参照していただければ幸いです。

■ 感想等

まさ:日本書紀全体から瑞祥や凶兆、災異の記事を抽出され、その分類をされた労力は大変なものだったと思います。その成果として神から人間の世界へという過程が祥瑞などからもうかがえ、大変意義のあるものだと思います。

発表者:ありがとうございます。
拙い分類でしたが、瑞祥・凶兆・災異の区別が明確にできたので、ほっとしております。記事の検討にはまだ不充分な点もあり、表面的な記事の解釈だけでなく内容面での解釈もさらに充実していかなければと考えております。それをまとめることができたら、また発表いたしますので、教示ください。

匿名希望:分類に少し曖昧な部分がありますが、もう少し分類を細かくし改善された方がよいのではないでしょうか。

発表者:気になっていたところなので、今後、少しずつでも改善していくつもりです。ご指摘、ありがとうございました。

■ 発表者から一言

貴重なご意見ご感想、ありがとうございました。史学的見地からのご意見が多く、きちんと返答しきれたかが不安ですが、いずれもとても興味深い見解でしたので、今後の課題にしたいと思います。今後もみなさまのご意見ご感想を参考にして、さらに研究していきたいと思います。

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